相続放棄の注意点

文責:所長 弁護士 石井 浩一

最終更新日:2024年10月03日

1 相続放棄は被相続人死亡後に行う

 厳密な意味での相続放棄(法律上の相続放棄などと言われます)は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、裁判所に対して、所定の書類を提出することで初めて実現できます。

 「相続の開始があったことを知った日」という要件があり、相続は被相続人の死亡によって開始されることから、理論上、被相続人がご存命のうちに相続放棄を行うことはできません。

 それにもかかわらず、3か月という短い期限が設けられていることから、相続放棄が視野に入っている方は、被相続人の生前より、ある程度の準備を進めておいた方が良いことがあります。

 相続放棄をするにあたっては、行ってもよいこと、行ってはならないことが存在します。

 これを、法定単純承認事由に該当する行為といいます。

何が法定単純承認事由に該当する行為に該当するかをあらかじめ調べておかないと、うっかり行ってしまうリスクがあり、相続放棄が困難になってしまうことがあります。

 また、残置物となり得る家財道具などを被相続人の了解を得て処分する、被相続人が施設や病院に入っている場合には賃貸住宅の契約を解約しておく等をしておけば、法定単純承認事由に該当する行為を行ってしまうリスクを軽減できます。

2 相続放棄は相続に強い弁護士に依頼する

⑴ 代理人になれるのは弁護士だけ

 相続放棄は、裁判所を通した手続きです。

 弁護士だけが、裁判所へ相続放棄の申述を行う代理人になることができます。

 代理人は、申述人本人に代わり、相続放棄に関する手続を行えます。

 これは、裁判所から見て、誰を相手に手続きを進めればよいかという点で違いが現れます。

 弁護士以外の方が相続放棄を代行(書類等の代筆)した場合では、裁判所から見ると、申述人本人が手続きをしているように見えます。

 その結果、裁判所から本人に連絡がされます。

 本人に対して書類や戸籍等に関する問い合わせがなされるほか、相続放棄手続の成否に影響する質問状(照会書)もご本人に送付されることがあります。

 裁判所による照会や質問は、専門的な知識がないと回答できないこともあります。

 回答次第では相続放棄の手続きが認められなくなる可能性さえあります。

 そこで、相続放棄手続に精通した代理人弁護士がいると、安心して相続放棄を行うことができます。

 

⑵ 対応すべき付随問題が多い

 相続放棄は、相続放棄申述書を裁判所に提出するだけでは、問題解決ができないことが多いです。

 むしろ、相続放棄の難しさは、裁判所に対する手続き以外のところにあります。

 被相続人の残置物の取扱い、賃貸物件の大家への対応、未支給年金や健康保険、準確定申告、未払の水道光熱費、市区町村による葬儀補助金の請求、預貯金の取扱いなど、被相続人死亡に伴う諸問題に対し、1つ1つ対応していく必要があります。

 相続放棄するのだから全部無視してよいというアドバイスをされることもあると聞きます。

 しかし、このような非常に大雑把な対応は事実上困難ですし、いつまで経っても問題が解決しないこともあります。

 例えば、実際に賃貸物件の大家さん(不動産の管理会社)から連絡が入って、本当に完全無視を決め込むというのは、お気持ちの面において、簡単なことではないかもしれません。

 何度も電話がかかってきたり、手紙が何通も送られてきたり、最悪の場合法的な手続がなされることもあります。

 このような場合、やはり代理人弁護士を通すなどにより、大家さんには相続放棄をする旨について一報を入れて、法定単純承認に該当する行為は行わない範囲で、残置物のことや、契約の解消、連帯債務の存在の確認等を行っていくという対応をとることもあります。

 また、相続放棄が完了した際には、弁護士を通じてその旨を伝え、法的に決着をつけることも大切です。

 

⑶ 相続放棄後の紛争発生に備えた手続き

 無事裁判所から相続放棄が認められた旨の書類(相続放棄申述受理通知書)が届くと、ひとまず相続放棄の手続は完了します。

 しかし、相続放棄が完了したことが、裁判所などから債権者等に連絡がなされることはありません。

 そのため、相続放棄完了後であっても、被相続人の債権者を名乗る者から相続人に対して、金銭の請求がなされることがあります。

 具体的には、貸金返還請求訴訟などを提起したうえで、裁判の場で相続放棄が無効であることを、証拠とともに主張することが想定されます。

 このような場合には、相続放棄が適法に成立している旨の反論をすることになります。

 そして、その際、証拠を示す必要があります。

 日頃、訴訟を経験している弁護士であれば、もし訴えられた場合に、どのような証拠や資料があれば相続放棄が適法に成立していることを証明できるかを事前に検討し、準備をしたうえで相続放棄手続きを進められますので、相続放棄後も安心です。

3 相続財産には手を付けない

⑴ 法定単純承認

 相続放棄は、法定単純承認事由に該当する行為と呼ばれる行為を行ってしまうと、認められなくなることがあります。
 法定単純承認行為として、①相続財産の処分、②熟慮期間の徒過、③限定承認、相続放棄後の背信的行為などをした場合が挙げられます。

 実務上特に問題となるのが、①相続財産の処分です。
 相続財産の処分に該当する行為の恐ろしいところは、特に意図せずに、悪気が合って行ったのではない相続財産の処分行為等によっても、相続放棄ができなくなることがあるという点です。
 以下に、相続財産の処分とみなされる例、みなされない例を挙げます。

 

⑵ 相続財産の処分とみなされる例

・被相続人の預金を引き出して自己のために消費すること

・被相続人の財産を売却、換価すること

・被相続人が所有していた自宅家屋を取り壊したりすること

・被相続人の債務を、被相続人の預貯金、現金等から返済すること

・被相続人の相続財産について遺産分割協議をすること

 

⑶ 相続財産の処分とみなされない例

・紙くずやホコリなど(いわゆるゴミ)、明らかに交換価値のない財産についての処分行為

・形見分け程度の、被相続人の身の回りの日用品の取得(ただし、時計、貴金属など高価なものを持ち出すことは、相続財産の処分に該当する可能性が高いと考えられます)
・倒壊の恐れのある家屋を補修するような場合(保存行為)
・社会通念上相当な金額の葬儀費用を被相続人の金銭から支出すること

4 被相続人の残置物対応は厄介

 被相続人が賃貸住宅や施設などに住んでいた場合、被相続人の残置物の取扱いは、相続放棄を検討している相続人を悩ます問題の種となります。

 古い衣類や、何年も使った家財道具など、使うことはない物がたくさんあります。

 残置物も被相続人の所有物であったことから、基本的には相続財産を形成します。

 つまり、本来はゴミとして扱われるようなものであっても、うかつに処分をしてしまうと、法定単純承認事由に該当する行為となり、相続放棄が認められなくなるリスクがあります。

 さらには、大家さんなど賃貸人との関係にも気を使うことになります。

 大家さんとしては、早く残置物を処分し、原状回復をして次の賃借人に貸さないと、家賃収入が入ってこなくなってしまうためです。

 残置物の取扱いについては、財産的価値のないものについて、形見分け程度の処分であれば単純承認にはならないとの裁判例はあります。

 もっとも、残置物の全てまたは大半を処分した場合についての判断はいまだ確立していません。

 実務上は、財産的価値のない物(売却しても値が付かず、むしろ処分費用を要する物)を処分したとしても単純承認事由にあたらないとされることも多いですが、裁判所による判断が確立していない以上、処分によるリスクを最低限に抑える必要があります。

 どうしても残置物を処分しなければならない場合、処分したものの中に財産的価値のある物がなかったことを説明できるような準備が必要ですので、具体的な手段について、弁護士に相談することをおすすめします。

5 被相続人死亡から3か月以上経過している場合の素人判断は禁物

 相続放棄の期限は、条文上、「相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内」とされます。
 この3か月の期間のことを「熟慮期間」ということがあります。

 相続放棄は、一切の相続権を失う重大な手続であることから、相続放棄をすべきか否かを検討する機関が設けられているのです。
 熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として相続することを承認したとみなされてしまい、相続放棄をすることができなくなります。

これは法定単純承認事由に該当する行為の1つです。

 注目していただきたいのは、熟慮期間の起算点は、「相続の開始があった時」すなわち被相続人が死亡したときではなく、「相続の開始があったことを知った日」です。

 「相続の開始があったことを知った時」とは、①相続開始の原因たる事実(つまり被相続人が死亡したこと)、および②それによって自分が相続人となったことを知った時であるとされています。

 ご事情によっては、被相続人の死亡から3か月以上経過していても、①又は②のいずれかが到来していないといえる場合があります。

 例えば、何十年も前に行方不明になり没交渉となっていた被相続人がいたとして、その被相続人が1年以上前に亡くなった旨の通知が市役所等から届いたケースなどがあります。

 また、先順位の相続人が相続放棄をしたことを知ったという場合もあります。
 このような事情を家庭裁判所に効果的に主張するためには、相続人の方の個別事情を詳しく伺い、具体的な事実を書面にまとめて提出する必要があります。

 そのためには、弁護士のサポートが欠かせませんので、弁護士にご相談ください。

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